 これまでにいくつか芸能人と旅についてのエントリーをお届けしましたが、 芸能人の旅と言えば、華やかなスポットライトを浴び常に満員の観客が迎えてくれる 売れっ子の全国ツアーもあれば、それとは裏腹な、ろくに客もいない寂れた会場で 酔っぱらいの罵声や、時には大イビキを相手に歌わなければならないドサ回り興行も存在します。 平成も20年を越えた今日ではそういうのは流行らないかもしれませんが、 昭和40年代には確実にそういう世界は存在し、むしろ主流でした。
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今回の御題に取り上げる『さすらいの太陽』はそんな昭和46年に放送されたアニメで、 運命のいたずらで入れ替わった大金持ちの娘と貧乏人の娘とが同じ歌手を目指して競い合う物語で、 主人公の峰のぞみは今は貧乏人の娘として暮らしているため、金の力でのし上がっていくライバルに 悔しい思いをしながらも、自らが信じる歌の心を会得するために様々な苦労に立ち向かっていきます。 原作はすずき真弓(脚本を担当したのは藤川桂介!)による古い絵柄の少女マンガですが、 アニメ製作を旧虫プロが担当したため、『あしたのジョー』の歌謡曲版的濃い世界が展開します(笑)。

では、まずはその素晴らしいオープニングとエンディングを御覧ください。 音楽担当はいずみたくなので、どちらの曲も、いかにも昭和30~40年代の「下町の太陽」的、 明るさと、たくましさと、そして切なさにあふれた名曲です。
今回TOPにお見せしたのは、そんなのぞみが地方のドサ回りの時に乗せられたダンプカーで、 悪徳プロダクションのDMプロ(ドサ回りプロ?)ではたとえ一座のスターといえども カラフルペイントのバスなんてトンデもなく、時には吹きっさらしの荷台での旅を強要されるのでした。
 画面ではこんな感じで細かい車種までは不明ですが、明らかなボンネットタイプのダンプカーで、 荷台の縁が高いところからも砂利運搬用のダンプを払い下げてもらったんじゃないかという感じです。 色が紫というのもあり得ない趣味の悪さで、昔こういうダンプが走ってるのはよく見たけど、 紫のなんて無かったですから!(苦笑)。
 ミニカーはトミカのニッサンディーゼルダンプトラックです。 黒箱の頃に出ていた当時の16番で、バリエーションナンバーは16-2。 色の正規バリエーションとしてこの紫もあったから、実は私が見たこと無かっただけで、 当時この色のもちゃんとあったのかもしれませんね。 ブツはジャンクとしてヤフオクで110円で手に入れました。リペしようとかなとも思ったけど、 多少はチップがあるくらいが実用車として自然なのでそのままです。
また、この作品にはメインタイトルにも出てくるし、主人公と恋人の青年ファニーとの出会いにも 大いに関係するポンティアックGTOらしき車も登場します。
 この独特のヘッドライト回りは1969年型っぽいでしょうか? あのモンキーモービルのベースが66年型だからちょっと後になりますね。 やっぱこの車、音楽業界と縁が深いな~(笑)。
この作品で主人公の峰のぞみを演じているのが藤山ジュンコで、他のアニメでは見たことのない 声優さんですが、それもそのはずで彼女は歌手、それもいずみたくの弟子で 抜群の歌唱力を持った人なのです。時期的には今陽子の次くらいのお弟子さんでしょうか? ひょっとしたら、劇中登場する江川先生とのぞみとの、厳しくも暖かくそしてどこかユーモラスな関係は いずみたくと藤山との関係そのものだったりして(笑)。 歌唱力を買われキャスティングされた藤山ですから、劇中の峰のぞみの歌声はみな彼女が 吹き込んでいます(このアニメ化自体が彼女を売り出すプロモーションだったという説もあります)。 エンディングの「心のうた」も最初は堀江美都子が吹き込んだ歌が使われましたが、 あまりに違いすぎるという話が出たのか、藤山ジュンコ版も何度か流されるようになりました。 ミッチ版はさきほど聴いていただきましたが、藤山版はこちらですので、どうか聴き比べてみて下さい ミッチも歌は巧いんですが、峰のぞみの「下町の太陽」的なたくましさとは遠い歌声ですから、 この劇中と同じ藤山版をエンディングにも使ったのは大正解だったと思いますが、 ちゃんと1番と2番に分かれてるあたりが、当時のいろんな事情を感じさせますねぇ…。
堀江美都子は最初期の『紅三四郎』が途中で変更された主題歌を担当、 『金メダルへのターン』では、同じ主題歌を途中から元の歌手に変わって担当、 そして、この『さすらいの太陽』での「競演」と、日本コロムビアの当時の強い売り込み振りが 実感できるキャリアも持っており、この作品での峰のぞみのライバル役にキャスティングしたら ピッタリだったのかもしれませんが、さすがにあの意地悪な役はイヤだったでしょうね。 どういう事情かは解りませんが、実際の声優も途中で交代してるくらいだし(笑)。
劇中では当時の流行歌の数々が藤山によって歌われますが、第18話「港にこだまする歌」で 流れるソウルフルな「鎖」というナンバーは藤山のオリジナルで当時、シングル発売もされました。
 これがジャケットで、2つ折りをタテ一杯に使い彼女の全身を大きく取り上げているのは印象的で、 藤山ジュンコの風貌については今日ほとんど伝わっていないだけにこのジャケットは貴重です。 (1979年の『喧嘩道』というマンガの実写映画化時に「藤山順子」名義で歌った主題歌レコードにも 写真はあるけど、そっちは聴いたことないし、メイクが全然違い同一人物か不明なので保留w)
抜群の歌唱力を持ちながら、歌手としてのヒット曲には恵まれず、『さすらいの太陽』絡みでのみ 記録が残っている藤山ジュンコでしたが、2007年に意外な復活を遂げました。
 それは憲法9条改正問題を扱ったドキュメンタリー映画『We 命尽きるまで』の主題歌 「We shall overcome」を歌うというかたちでしたが、なぜこうなったかと言うと、 彼女の実の兄が藤山顕一郎という映画監督で、かつての学生運動の闘士でもあったために、 安倍内閣時に再燃した憲法9条改正問題に反対し、その活動記録を映画に撮り公開したのでした。 (この映画についての情報はこちらへ)
藤山ジュンコは表舞台には上りませんでしたが、ジャズやソウルをずっと歌い続けていたそうで、 歌声も今は「いぶし銀の歌声」に変わっているそうですが、その姿勢こそ、虚飾の世界を避け ドサ回りの苦労から歌の心をつかもうとした峰のぞみの生き方そのものなので、 きっと今の彼女の歌う「心のうた」も素晴らしいんだろうなぁと思います。 この『We 命尽きるまで』上映会で行われることもある彼女のライブでは、 「心のうた」も歌ってくれるそうなんで、今も輝きを失っていないに違いない「さすらいの太陽」を、 自分の耳で確かめてみたい気持ちでいっぱいです。
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