さていよいよ4巡目です。先行公開も入れるとそろそろ封切から1ヶ月経つので 観る気のある人はもう観てるとしてネタバレ全開で行きます(笑)。
 大傑作だった50周年記念作品『007/スカイフォール』の次回作『007/スペクター』、 『スカイフォール』のラストが、男性新Mの伝統的内装のオフィスにボンドが入り、 新しい事件が始まるところで終わったからには、次からはここ数作のリアルで殺伐 とした事件じゃなく、かつてのボンド映画的荒唐無稽だけど胸躍る冒険に違いなく、 ヤングQからロートル扱いされたクレイグも、きっと肩の力を抜いて余裕綽々と その冒険に挑んでくれるだろうと思ってました。 だから『007/スペクター』がガンバレルシーンで始まったことに心から快哉を叫び、 変化球の連続だったクレイグ・ボンドもやっと正攻法のボンドを演じてくれるのだと 期待に胸がふくらんだのです。 開巻すぐは大掛かりなドクロのパレード。『死ぬのは奴らだ』冒頭の殺人葬式や、 『ムーンレイカー』のカーニバルを思い出させるシチュエーションです。 ここでのダニエルは女性を待たせたまま敵と壮絶な立ち回りを演じ、アクションの すさまじさはシリーズ屈指だし、ユーモアもそれなりに感じるしですこぶる快調。 メインタイトルはサム・スミスの「ライティングズ・オン・ザ・ウォール」が主題歌で
歌詞と日本語訳はこちら
伴奏のスケールは大きいけどアデルの「スカイフォール」の二番煎じ的薫りがする 「悪い予感がするけど、君が支えてくれれば乗りきれる」という軟弱者の歌で ファルセットも使った弱々しい歌いぶりが極めてマッチしてます。この歌の題名は 直訳すると「壁の落書き」なんで、スラムによくある奴を想像し、落書きごときで 神経衰弱に陥り女にすがるとは、やっぱ歌声どおり軟弱な奴だと思ったんですが、 なんとこれ、旧約聖書のダニエル書第5章に由来する慣用句で
 宴会中、中空に浮かんだ手が壁に見慣れぬ文字を書くのを見て怯えたベルシャザル王が 「文字を解読した者には王国第三位を与える」と宣言すると、神官長ダニエルが、 「神は先代ネブカドネザルに権勢と栄光を与えたが、尊大・横暴に振る舞ったので 地位を終われ神の怒りを知ったが、その子のあなたも神への冒涜をやめなかったので、 神はあの手を遣わして『お前の国は分断される』と書かせた」と読み解き、 その夜、ベルシャザル王は殺された
というエピソードが元になっているそうです。壁の落書きどころか、御神託、それも 悪い預言なんだから怯えても無理ないですねぇ…((( ;゚Д゚)))))ガクガクブルブル この歌、隠された意味が解ってみるとそんなに悪くないかもですねぇ…。 神官長ダニエルという名が気になるけど、偶然か、それとも狙ったんでしょうか? 先代の栄光を継いだ息子が傲慢の限りを尽くし、ダニエルにより引導を渡されるって、 カビーとマイケルが築いて栄華を誇ったシリーズを、 ダニエルを使ってバーバラが破滅に導くってことですか?(T_T) タイトルバックにはダニエル・ボンドの過去作メインキャラがモノクロで登場し 『女王陛下の007』を思わせるけど、ミスター・グリーンだけいなかった気も…。
 そして、今回のキャストの中で一番気になってたモニカ・ベルッチの登場。さすがに お年を召して美貌には衰えが見られるけど、今回私が期待しているような役柄だったら それはむしろ好都合。期待しつつ見ていると、アレアレ、これでオシマイ? 「君の身柄は友人のフェリックス・レイターが保証する」って『カジノロワイヤル』で 情報を聞き出した敵の情婦(婦人?)が殺されちゃった時よりは進歩してるけど、 バーバラさん、客が曰くありげな大物女優に期待したのはそうじゃないでしょ?('A`) しかし『007/スペクター』には過去作からの引用が実に多いです。すぐ気付いただけでも ・ドクロのパレード→死ぬのは奴らだ
・黒衣の未亡人→サンダーボール&ダイヤモンドは永遠に
・スペクターの会議→サンダーボール(メンバーが殺されるのも同じ)

・DB5とDB10→ゴールドフィンガー(好みじゃない曲で閉口はマット・ヘルムw)

・ブロフェルドの傷→二度死ぬ

・雪山頂の医療施設→女王陛下(Qの乗るロープウェイも)
・ゴージャスな列車内での格闘→ロシア&私愛

・部屋の暗がりから声→ドクターノオ
・MI6ビルから特殊ボート射出→ワールドイズノットイナフ
・最後のアストンでのボンドガールとの出発→女王陛下の新婚旅行 とコレだけありました。
あまりに多いんで観てるうちに「まじめに作られたダイアナザーデイ」みたいだと 思えてきたんですが、あの作品は40周年&20作記念作だったので楽屋落ちが多く、 本筋に絡まない楽屋落ちは多すぎると却ってシラけるものですが、全体がおふざけ調の 『ダイアナザーデイ』ならともかく、真面目な中にやると浮きまくりですよねぇ…。
(スペクター)会議での大ボスがボンドを知っているらしい態度は、実は彼がボンドと 「義兄弟」の関係だったからと明かされたけど、今作ではあまり大きな意味を持たず、 単に『スカイフォール』が「母」の話だったので、今度は「父」にしたんじゃないか という気すらします。まぁ結局、大ボスのブロフェルドが逮捕されたので、この因縁は 今後活かされる可能性はありますが…。ひょっとしたら今回、ブロフェルドがやった ボンドの耳に針を刺す拷問は、本来なら認識力も衰えるはずが却って活性化したんで、 2ちゃんあたりでモノ笑いのタネになってたけど、原作『黄金銃』にあるボンド洗脳の要素 かもしれません。その要素は『ダイアナザーデイ』で「ロシアの監禁から帰還するボンド」 だけ使ったけど「洗脳されたボンド」のシチュエーションは未使用なんですよね。 原作要素をバラバラに複数の作品で使うのはよくやる手なんで、次回作で発症するのかも?
 クレイグ・ボンドお馴染みの悪役、ミスターホワイトが荒みきった姿で登場し 「携帯に有害物質をしこまれた」と字幕が出たけど、なっちの誤訳かも知れません…。 セルには「細胞」と「携帯」の意味があるけど細胞の方が自然だし、有害物資の人体注入は ロシアが暗殺で使ってる手だからです。 ただココも前作の母「誤訳」事件があるんでなっちが正しい可能性もありですな(苦笑)。 ホワイトの娘マドレーヌをなんとか味方に引き入れたボンドは彼女から組織の名前は「スペクター」だ と言われますが、あの懐かしいフルネーム(対敵情報、テロ、復讐、強要のための特別機関)は 出てこなかったのはちょっとガッカリです。マクローリーとの確執でずっと出せなかったこの組織が せっかく使えるようになったのに何とももったいない。
このマクローリーとの確執は彼の死後どうなってたのかよく解らなかったんですが、 英語圏では2013年11月にこういう記事が出され、 MGMとイオンプロ(ダンジャクというのはイオンの親会社)がマクローリー遺族から 007に関する全権利を獲得したことが明らかになってました。 まぁこれでイオンプロとMGM(及びその背後のソニーピクチャーズ)との関係が 悪化しない限り、権利的には007映画は安泰でしょうね。\(^o^)/ 今作でクォンタムとスペクターの関係が触れられないのは不自然だと思ったけど、 クォンタムってのはソニーピクチャーズによるMGM買収を仕掛けた元ソニー会長の 出井伸之氏が現在経営の会社なんで刺激せぬ方が得策とイオンプロが判断したのかも? 過去の悪役のうちミスター・グリーンだけほとんど触れなかったのも、彼はクォンタム配下だと 明言しちゃったからかもしれません。((( ;゚Д゚)))))ガクガクブルブル
かくして、映画に復活したスペクターですが、そのメインの目的が実に地味でした。 イギリスの国内治安維持に責任を有する情報機関MI5の高官Cの提唱する 世界情報網統合案「ナイン・アイズ」を使い各国の機密情報を掌握する事なのです。 ブロフェルドが指揮する悪事といえば、原爆ミサイルを強奪するとか、各国の宇宙船を 乗っ取るとか、ダイヤモンドレーザー衛星で世界各地を狙い撃ちするとか、 派手なものが多かったので、今回の狙いにはやや拍子抜けですが、よく考えると 『女王陛下の007』で世界各国のアレルギー持ちの裕福な令嬢を集めて洗脳し、 母国で細菌をバラ撒かせるという地味だけど危険な作戦をすでに実行してましたね。
 今回の「世界中の機密情報を掌握する」も同じように危険で、MI5長官Cが スペクターの仲間だったので、スタッフ同士の会話は盗聴されまくりだし、 情報は抜かれまくりだし、しまいには危うくMI6は取り潰されるところでした…。('A`) 近作で2回本部が爆破されたけど、組織自体が無くなる絶対の危機はシリーズ初! このMI6存続をめぐるMとCとの戦いも見どころで、Mと幕僚長タナーと すっかり昔通りのゴチャゴチャした研究室も復活したQとマネペニーがチームを組んで 肉弾戦をやるなんて展開は誰が予想したでしょう? 現Mのレイフ・ファインズは 軍人上がりの設定なんで『スカイフォール』に続いて奮戦してくれましたが、 彼は私と同い年なんでまだまだ実戦を頑張って欲しいです\(^o^)/ マネペニーのベッドに恋人と思しき男が寝ていたのにはビックリ(゚ロ゚ノ)ノ!! 以前、デンチMのベッドに旦那が同衾してたことはあったけど、やはりマネペニーは 永遠にボンドに片思いでいてほしいですが、これがバーバラの「そんなのナンセンス」 という提案での改変だったら困ったことです…。('A`) 先ほどちょっと話に出た『ワールドイズノットイナフ』『スカイフォール』と 2回に渡って内部が爆破された旧MI6本部が、今回は跡形もなく完全破壊されますが、 現実では現役なのになぜこんなことを? デンチ時代の完全否定なんでしょうか? デンチがMに就任したのは『ゴールデンアイ』で、ブロスナン・ボンドの時代は おそらくマイケル・G・ウィルソンが完全に主導権を握っていた時期でしょう。 現実にMI5の長官が女性になったことに影響されMを女性にしたけども、 ブロスナン・ボンドの個性は旧来のままだし、事件も豪快で派手だった時代。 しかしマイケルの老齢化によりバーバラが実権を握ったクレイグ・ボンドの時代は、 陰気なボンドに地味な事件と真逆に舵が取られ、映画としての完成度は高いけど、 爽快さに乏しい「モラトリアム・ボンド」的作品が続いたのは事実です。 そもそも『カジノロワイヤル』の最後の「ボンド、ジェームズ・ボンド」で ボンドが完全に007になり、以降は痛快大冒険が始まるべきだったのに、 『慰めの報酬』でまた過去を引きずってしまい、それを克服したはずの 『スカイフォール』ではもうボンドが衰え引退勧告を受けるようになっていて、 一番脂が乗った時期の活躍を描かないのが理解不能だし、あの作品の最後で 新M・Q・マネペニーが揃ったのにまた今作では変則的任務になってるのも 腑に落ちません。余程バーバラは「普通の007映画」を作るのが嫌なんでしょうか? 最初から何度も出たミスター・ホワイトを死なせたのはクレイグ流リアルボンドから、 実はクレイグ自身はやりたかった伝統的ボンドへの回帰のつもりかもしれませんが、 4作目では遅すぎはしないですか? クレイグが次回作もやるかは微妙らしいし、 やっても50代に突入してます…。('A`) 今回いろいろ伏線を待ち散らしたので、 拾うつもりなら次もクレイグで、新記録の007作主演達成まで続投すべきです。 なぁにスタントマンとCGを多用すればあと10年くらいはクレイグでやれますよ! マイケルの子が制作に参加してるらしいので、彼があと10年くらい修行を積み、 一人前プロデューサーとして男性向け痛快007映画を制作できるようになった時に、 さっそうと新ボンドに登場してもらいたいものです。10年ならまだ待てそうだから、 男の夢の新ボンドを観てから死にたいなぁ…(T_T)
今作『007/スペクター』の感想まとめとしては、アクションはすごくて見どころもたくさんあるけど 各要素一つ一つに深い意味を持たせ、それらが有機的に絡みあった前作 『スカイフォール』には完成度で及ばない、って感じですかね…。
今回はボンドールは一切発売されてないし、コーギーのミニカーもまだ 日本に入ってきてないので、オモチャ記事は無しですが、代わりとして、 今回いくつか日本で出た関連本等の紹介。
まずは基本の映画パンフレット。
 と言うより今回劇場で売ってた関連グッズは これと トランプと、ボンド別の映像ディスク集だけでした。(T_T) 横のビールは、とっくにNETでは売り切れてたハイネケン「スペクター」瓶が 近場のホムセンで普通に売ってたんで大喜びで買ったもの。
『ジェームズ・ボンド全仕事』
 「全」と言いながら基礎的事項をなぞっただけだし、途中からモノクロになる本。 ま、お金に余裕があれば…。
『俺たちの007』
 表紙もかっこいいしフルカラーで前の本よりはマシなんで、 今回初めてボンド映画のお勉強をしたい人はこっちかな?
そして今回の関連本の一番のオススメは『キネマ旬報』の2015年12月上旬号
 いつもそこそこ充実した特集を組む『キネ旬』だけど、今回はページ数はそう多くないものの、 私が読んで感心した記事がいくつかあったボンドマニア向けの本。 もう店頭には無いけどアマゾンでバックナンバーが買えます。
それから、前売り券の特典だったようだけど、こちらの「ボンド バイ デザイン」。
 これはオールカラー40ページに渡り、各007映画の美術設定・デザイン画・絵コンテ等が 収録されてる豪華な小型本。なんでこんなモノがオマケに付くのかというと 今回英語圏で出版された同じ表紙絵の大型分厚い本の内容見本みたいなモノで、 これで一部を見せてマニアを釣ろうという作戦ですな。日アマで6000円する元本を 買おうかどうか迷ってたけど、まんまと釣られて買う気ですが何か?\(^o^)/
 これは『007は二度死ぬ』の頃出たMGCボンドショップの「Visier/007スパイ特集号」 という小冊子と同じようなサイズだから並べてコレクションするとイカスぞ~!(*´σー`)
さて、本年度の更新は今回でおしまいです。 今年も一年お付き合いくださいましてありがとうございました。 来年は2日は確実にお休みさせていただきますが、以降はまだ考えてません。 それまでにSWの新作見に行って面白かったら、また1月ブチ抜きやるかもです。
それではみなさまも良いお年を!m(_ _)m
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