今回のお題はパペットボクシングです。前回の同テーマの記事で、 最古のメカニカル付きボクシングパペットについて書きましたが、 まとまった資料がみつからないボクシングパペットの世界でも、 ebayの売主が書いてる口上や、他の人形劇の資料を手繰るうちにある程度 みえてきたことがあるので、ここら辺で一度まとめておこうと思います。 資料不足で推測の域を出ない部分もあるので、 あくまでfziroの「私論」として読んでいいただけると幸いです。m(_ _)m
パンチング人形(ボクシングパペット)の歴史を考えると、ルーツが実に古いことに驚かされます。 そもそもなぜパペットで殴り合いをするのか? 普通パペットって幼児が遊ぶ玩具で 愛らしい動物なんかを使って、オママゴトの延長のようなほのぼの遊びをするイメージですよね。
 しかし西洋では少し様子が違っていて、まず登場するのはイタリアの道化師です。 プルチネッラ (pulcinella) は、イタリアの14世紀以来の伝統的な風刺劇に登場する道化師で、 高い鼻と太鼓腹、白い服とは対照的な黒いマスクが外見的特徴です。 このプルチネッラはイギリスに伝わり、語頭のPulciから「パンチ」(Punch) という名の 毒舌の道化師として人気を博しました。パンチは雑誌『パンチ』のメインキャラクターとなり、 やがて掲載された風刺漫画を「パンチ」と呼ぶようになって日本には「ぽんち絵」として伝わったのです。
またパンチの高い人気から「パンチとジュディ」というマザーグースの歌も生まれましたが、 punchは打撃のパンチと同じ単語なので、その歌詞は
パンチとジュディ パイを取り合い大げんか パンチがジュディの お目めに一発
パンチは言った もひとついるかい? ジュディは言った お目めがパイみたいに腫れたわよ
という夫婦ゲンカの歌となり、17世紀にはその内容を元にした パペットによる人形劇にもなりましたが、
 基本はパンチが赤ん坊を放り投げ、ジュディを棍棒で殴り倒し、 その後も犬や医者、警官やワニなどを殴り倒し、死刑執行人を逆に縛り首にし、 最後に悪魔を殴り倒すというブラック&スラップスティックな内容でした。 そうイギリスでは17世紀頃には「パペットとは殴り合いをするもの」 との共通認識があったんですよ!
ちなみにこの人形はフランスではギニョールと呼ばれる人形劇のキャラクターになり、 ロシアのペトルーシカもプルチネッラを起源とする出し物ですがロシア・バレエ団のバレエや ストラヴィンスキーが作曲した「ペトリューシカ」にもなり西洋文化圏では広く知られていました。
パペットが殴り合いをするものならボクサーのパペットが生まれるのは自然で、 現在、普通に流通しているボクシングパペットで最古とみなされているのは メカニックの無い単なるパペットでですが、ジョー・ルイス&マックス・シュメリングのようです。
(参考写真) ルイスは史上2人目の黒人チャンピオンで、黒人差別が酷い時代に初代ジャック・ジョンソンが 色々とやらかしたので、「黒人には二度と挑戦権を与えるな!」という世論が強かった中、 ルイスはいろいろ白人社会に溶け込む努力をし、やっとこの地位についた苦労人だったそうです。 ルイスとシュメリングの二人は1936年と38年の二度対戦し、先にドイツ人シュメリングが勝ち ルイスが再戦を制しました。最初の試合では「クロンボを倒せ!」とのシュメリング応援も多かったけど 再戦は「アメリカ自由主義VSドイツナチズム」的風潮が支配しアメリカ全体がルイスを応援。 シュメリングはナチ党員じゃないけど従軍してるので、このペアで出たからには発売は 1940年代初頭の第二次大戦前、あるいは戦意高揚の戦中商品でしょうか? プラスチック発達以前なので顔とグローブがゴムですが、内部のメカが無い他は 現在の商品と印象は変わりません。 内部メカの発明ですが、パペットで遊んだことのある人ならお解りと思いますが、 普通は真ん中の指3本(のうちどれか)を頭に入れて、親指と小指で左右の腕を操る 仕組みですが、この状態で殴り合うと親指と小指の疲労がハンパ無いし、手首を振って 猫パンチなら打てるけどストレート系は無理です(笑)。だから「試合」が単調になり 客の不満が募ってパンチ機能を考えたんじゃないでしょうか?
前回のこのテーマの記事で、推定1964年頃発売のスペインのグレーテストチャンピオンが 現状最古のメカニカル入りボクシングパペットらしいと推測しましたが、箱にパテントが どうのこう書いてあるんで、たぶんこのクレーメル社の商品がメカの始めなんでしょうね。
 (参考写真) パンチング人形を調べ始めた時、ボクサーもあったけど政治家やら尼僧やらユダヤ教のラビ等 殴り合いをやるにはブラックなキャラが多いなぁと不思議に思っていましたが、 もともとバチあたりな殴り合いをするものだったんだから、 バチあたりなキャラとボクサーに分かれていったのは極めて当たり前の話だったんですよ(笑)。 また、この商品が 最も流行っているアメリカでは、野球やフットボール選手の 殴り合い乱闘がお馴染みのようで、それらの選手やマスコットのボクシングパペットも 多く作られているので、アスリート系としてもいいでしょう。
もしかしたら、日本で最初期の怪獣人形が、新進メーカーマルサンからソフビ人形として出た他に 老舗メーカーの増田屋からゴム製パペット(手踊り)として作られたのは、マスダヤのスタッフが 「パペットとは殴りあうもの」という歴史を知っていたのかもしれません…(°∀° )
TVや映画の発達に連れて手踊り、そしてボクシングパペットにも映像キャラが増えていくのは 当然の流れで、その結果、私がコレクションを始める気になった訳ですが、 このジャンルは今後も、伝統バチあたり系(含む政治家)、アスリート系、映像キャラクター系を 3本の柱として、細々と増えていくんじゃないでしょうか? 一番新しいキャラクターとしてはオバマ大統領のが売られていますが、 指で押せばパンチをするパペットは、単純で面白いだけに廃れきってしまうことはなく、 とは言え、勝敗を決する方法が無いために飽きられやすく、 今後も主流にはなりえないんでしょうねぇ…。 首をバネでボヨンボヨンにする工夫を取り入れてる商品もあるから、もう一歩進めて 普段はカチッと首が座っていて、激しいパンチを受けたら留め金が外れてボヨヨンになって負け、 みたいな工夫をしてもいいような気もします、アジアパチモンの伝統で、 コストダウンには熱心だけど、新規工夫なんか考えようともしないのかもしれまへん。(°∀° )
以上、今回は通史だったので参考写真バッカでしたが、それではあんまりなので 次回予告がてら、アメリカから来襲したボクシングパペット軍団の来日スクープ写真をお見せします。
 まるで『タイガーマスク』のふく面ワールドシリーズ開催前に羽田に降り立った 覆面レスラー軍団のような怪しいパペットボクサーの一団。 彼らがWPBでどんな熱戦を繰り広げるのかは今後の展開に御期待下さい!
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